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大阪地方裁判所 昭和52年(行ウ)107号 判決

豊中市柴原町五丁目一五番二〇号

原告

上田稔

訴訟代理人弁護士

井野口勤

川合宏宣

池田市城南二丁目一番八号

被告

豊能税務署長

近藤弘

指定代理人検事

饒平名正也

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(一)(1)  第一次的請求の趣旨

被告が昭和四九年一二月一八日付で原告の昭和四四年分所得税についてした再更正処分(裁決で一部取り消された後のもの。昭和四九年一〇月一六日付でされた昭和四四年分更正処分を含む)のうち総所得金額金三九二万六、一〇〇円、税額金九一万七、七〇〇円を超える部分並びに昭和四九年一〇月一六日付及び同年一二月一八日付でした各重加算税賦課決定処分(裁決で一部取り消された後のもの)を取り消す。

(2)  第二次的請求の趣旨

右再更正処分(裁決で一部取り消された後のもの。右更正処分を含む)のうち総所得金額金一、〇六一万一、七〇四円、税額金四〇六万九、〇〇〇円を超える部分及び右各重加算税賦課決定処分(裁定で一部取り消された後のもの)を取り消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との各判決。

二  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  原告は、研磨業を営んでいる者であるが、原告が昭和四四年分所得税についてした申告、これに対して被告がした更正処分及び重加算税賦課決定処分並びに再更正処分及び重加算税賦課決定処分、原告の異議申立てに対する被告の決定、原告の審査請求に対する訴外国税不服審判所長の裁決の各経緯と内容は、別表1記載のとおりである。

(二)  しかし、本件再更正処分のうち請求の趣旨掲記の各金額を超える部分及び各重加算税賦課決定処分(いずれも裁決で一部取り消された後のもの。以下本件処分という)は、二重課税処分であり、仮にそうでないとしても所得を過大に認定したものであるから、違法である。

(三)  結論

原告は、第一次的に請求の趣旨一(一)(1)のとおり(原告の修正申告を超える部分のみの違法を主張する)、第二次的に請求の趣旨一(一)(2)のとおり、本件処分の各取消しを求める。

二  被告の答弁と主張

(認否)

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の主張は争う。

(主張)

(一) 原告の昭和四四年分の総所得金額及びその内訳は、別表2の〈1〉欄記載のとおりであるから、その範囲内でされた本件処分は適法である。

(二) 譲渡所得

(1) 原告は、昭和四四年八月二〇日、訴外松尾武信及び訴外株式会社松本正夫商店(以下松尾武信らという)に対し、別表3の1.2の〈1〉欄記載の各土地(以下本件土地という)を代金四、一〇〇万円で売り渡した。

(2) 本件土地のうち、三重県阿山郡伊賀町大字柘植町字上山ノ田三、九四五番、三、九四七番、三、九四六番の二ないし四の各土地合計四、四二一平方メートル(原告が訴外田中啓太郎から取得したもの)の譲渡による所得は、原告の所有期間が三年を超えているから、総合長期譲渡所得に、その余の各土地の譲渡による所得は、原告の所有期間が三年以内であるから、総合短期譲渡所得にそれぞれ該当する。

(3) これらの総合長期譲渡所得及び総合短期譲渡所得の各金額及び明細は、別表4の〈1〉欄に、そのうち取得費の明細は、別表3の1、2の〈3〉欄にそれぞれ記載されたとおりである。

なお、仮に原告が本件土地を売却する際、仲介手数料を支払ったとしても、譲渡費用としては、後記原告主張額は、過大であり、大阪府宅地建物取引業者の報酬額による最高限度額金一三〇万円が相当である。

(4) 原告は、当初から、直接松尾武信らに対し、本件土地を売り渡す意思であったのに、原告からその支配会社である訴外近畿産業開発株式会社(以下近畿産業開発という)を経て松尾武信らに売り渡したかのように仮装した。

(5) 原告には、昭和四四年中に、本件土地売却によるもの以外に金一九万四、四八〇円の総合短期譲渡所得があった。

三  原告の答弁と反論

(認否)

(一) 被告の主張(一)のうち、原告には昭和四四年中に被告主張どおりの事業所得及び給与所得があったことは認めるが、その余の事実は争う。

(二) 同(二)について

(1) (1)の事実は争う。

(2) 被告主張の五筆の各土地の原告の所有期間が三年を超えていること、その余の各土地の原告の所有期間が三年以内であること、以上のことは認める。

(3) (3)のうち、原告が別表3の1、2の〈1〉欄記載の前所有者から本件土地を買い受けたこと、本件土地のうち原告が田中啓太郎、訴外橋本武雄、同木沢柳吉、同橋本貞男及び同橋本芳蔵から買い受けた各土地の取得価額が被告主張のとおりであること、原告が柘植英吉から買い受けた土地の取得価額及び登記料等は、原告が訴外中原金三郎から買い受けた土地のそれらに含まれていること、取得費のうち登記料等の金額が被告主張のとおりであること、以上のことは認めるが、その余の事実は争う。

(4) (4)の事実は争う。

(5) (5)の事実は認める。

(主張)

(一) 被告は、原告が松尾武信らに対し、本件土地を代金四、一〇〇万円で売り渡したものと認定して本件処分をした。他方、訴外上野税務署長は、近畿産業開発が右と同時期に原告から本件土地を代金一、一〇〇万円で買い受け、これを松尾武信らに代金四、一〇〇万円で売り渡したものと認定し、その所得について法人税の課税処分(更正処分及び加算税賦課決定処分)をし、その納付をさせた。

そうすると、被告及び上野税務署長は、国の行政庁として同一の買主に対する売買について二通りの異なる認定をし、その所得について二重に課税をしたことになる。そして、近畿産業開発に対する課税処分は、確定しているのであるから、本件処分は、法律上許されないものといわなければならない。

(二) 仮に右主張が認められないとしても、原告は、本件土地を代金一、二三四万八、〇〇〇円で買い受け、これを近畿産業開発に代金一、一〇〇万円で売り渡したのであるから、原告には本件土地売却による利益はない。

(三) なお、近畿産業開発は、原告の支配会社ではない。すなわち、

(1) 近畿産業開発の発行株式総数二万株の持株割合は、昭和四四年九月四日当時、原告、原告の妻訴外上田勝子及び原告の親族訴外大西康雄の三名が合計一万一、〇〇〇株であったのに対し、代表取締役訴外木田一郎が七、五〇〇株、訴外坂口昇一が一、〇〇〇株、訴外岡島四郎が五〇〇株で合計九、〇〇〇株の持株数となっていた。なお、後者三名は、原告とは親族関係にない他人である。さらに、原告及びその親族の持株は、昭和四七年九月三〇日当時には、九、〇〇〇株となり、過半数を割っている。

(2) 原告及びその親族は、代表取締役になったことがないし、役員報酬又は給料を受け取っていない。

(3) 原告は、豊中市に居住し、伊丹市で訴外豊中研磨産業株式会社を経営しており、土地の売買の諸手続については全く素人であるうえ、本件土地の所在地である三重県阿山郡伊賀町とは本件土地の売買に関与するまでは何の関係もなかった。

(4) 木田一郎は、本件土地の所在地付近で訴外近畿土木株式会社を経営しており、坂口昇とともに山林売買や宅地造成の専門業者である。原告は、木田一郎や坂口昇の協力を得るため、共同出資によって近畿産業開発を設立した。

(5) 近畿産業開発は、原告からは本件土地以外の土地を買い受けたことがなく、後には独自に土地を買い受け、これを造成し、又は売却し、今日まで事業を継続している。

(四) 以上の次第で、本件処分は、本件土地に関する譲渡所得の帰属者及び金額を誤り、所得を過大に認定した違法がある。

(五) 仮に近畿産業開発が原告の支配会社であり、本件土地を松尾武信らに売却したことによる譲渡所得が原告に帰属するとした場合、

(1) 原告と近畿産業開発とは、本件土地売却による譲渡所得に対する所得税の賦課に関しては、同一体とみるべきであり、原告が松尾武信らに直接売却した場合に当然必要とされる費用は、たとえ近畿産業開発が支出したとしても、原告の費用として計上すべきである。

(2) 原告の昭和四四年分の総所得金額及びその内訳は、別表2の〈2〉欄に、うち本件土地売却による譲渡所得の金額及びその明細は、別表4の〈2〉欄に、それぞれ記載されたとおりである。なお、本件土地の取得費のうち取得金額及び仲介手数料の明細は、別表3の1、2の〈2〉欄に記載されたとおりである。この仲介手数料のうち別表3の1の〈2〉欄記載のものは、原告が支払った分であり、別表3の2の〈2〉欄記載のものは、近畿産業開発が支払った分で、後者の明細は、別表5に、また工事費の明細は、別表6に、それぞれ記載されたとおりである。

(3) したがって、本件処分は、取得費及び譲渡費用の認定を誤った結果、所得を過大に認定した違法があることになる。

四  被告の答弁

原告の反論(一)のうち、被告が本件土地を松尾武信らに代金四、一〇〇万円で売り渡したものと認定して本件処分をしたことは認めるが、その余の事実は争う。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

第一課税の経緯について

請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

第二二重課税の主張について

一  本件処分は、原告が本件土地を直接松尾武信らに代金四、一〇〇万円で売り渡したことを前提にしていることは、当事者間に争いがない。

二  原告は、上野税務署長が近畿産業開発に課税し、その納付をさせたから、本件処分は、二重課税になり法律上許されないと主張している(三 原告の答弁と反論の項の主張(一)参照)。

仮に原告主張の右事実が認められると、近畿産業開発に対する課税処分は、本件土地売却による所得の帰属者を誤った点で違法な処分であるといえる。しかし、そのことから、本件処分が法律上許されない違法な処分であるというべき筋合のものではない。なぜならば、本件処分と関りがない別個の処分の違法事由を本件処分のそれとして挙げるものであるからである。

なお、近畿産業開発としては、国税通則法二三条二項二号による更正の請求をはじめとする不服申立手続及び訴訟手続によって近畿産業開発に対する課題処分を争うことができたのに、近畿産業開発は、それをしなかったため、課税処分が確定してしまい、今となっては、課税処分そのものを争うことが不可能な状態になっている。しかし、本判決で、原告に対する本件処分が適法であると判断される結果、税務当局は、近畿産業開発からさきに収納した税金のうち、もし本件処分と重複する分があれば、それを何らかの形で返戻する措置をとる必要が生じよう。税務当局が、法律上どのような形で返戻するかは、当裁判所の言及すべき事柄ではないが、ここでいえることは、このことと、本件処分が二重課税であるということとは、無関係であるということである。

第三各所得の金額について

一  事業所得及び給与所得

原告には、昭和四四年中に事業所得として金二〇三万六、〇一三円、給与所得として金一四万四、〇〇〇円の各所得があったことは、当事者間に争いがない。

二  譲渡所得

(一)  原告には、同年中に総合短期譲渡所得として金一九万四、四八〇円の所得があったことは当事者間に争いがない。

(二)  本件土地の売却による所得の帰属及び収入金額

(1) 成立に争いがない甲第一五、一六号証、乙第八、九号証、同第一二ないし第一五号証、証人坂口昇の証言(第一回)によって成立が認められる甲第六号証の二、三、同号証の五ないし七、同証言及び証人松尾武信の証言によって成立が認められる同第七号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第八号証、同第二四号証、証人横田良一(一部)、同松尾武信の各証言、原告の本人尋問の結果(一部)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、この認定に反する証人坂口昇(第一、二回)の証言、同横田良一の証言の一部、原告の本人尋問の結果の一部は採用しないし、ほかにこの認定の妨げになる証拠はない。

(ア) 原告は、昭和四三年、本件土地を造成して販売することを計画したが、税金対策のため、不動産売買等を目的とする会社を設立することにし、昭和四四年からその準備を進めた。

(イ) 原告は、昭和四四年八月二九日、この趣旨にそって近畿産業開発を設立した。近畿産業開発は、土地購入及び住宅等の造成事業やその販売業務を目的とし、三重県阿山郡伊賀町大字柘植町八、八九三番地の三に本店を置く株式会社であって、資本金は、金一、〇〇〇万円である。原告は、資本金の全額を出捐したうえ、原告以外の者をも名目上の株主にした。原告は、近畿産業開発の代表取締役に就任せず、木田一郎を代表取締役に就任させた。その理由は、原告が本件土地の所在地である三重県阿山郡伊賀町からは遠い豊中市内に居住していたことや自らも研磨業を営んでいたこと、他方木田一郎は、本件土地の所在地付近に居住し、不動産取引にも明るかったことにある。しかし、原告は、取締役には就任したし、他の者からは近畿産業開発の会長と呼ばれていた。

(ウ) 原告は、近畿産業開発設立の直前である昭和四四年八月二〇日、自ら松尾武信らとの間で、本件土地を代金四、一〇〇万円で売り渡す契約をし、その旨の契約書(乙第一三号証)を作成するとともに、松尾武信らから手付金として合計金六五〇万円を受け取った。

(エ) 近畿産業開発は、予定どおり設立されたので、原告は、本件土地が原告から近畿産業開発を経て松尾武信らに売却された形式をとろうと考え、同年九月八日ころ、松尾武信らに無断で、近畿産業開発に対し、本件土地について売買を原因とする所有権移転請求権移転の仮登記の付記登記手続又は所有権移転登記手続をした。

(オ) 売主が原告であると思っていた松尾武信らは、このように近畿産業開発名義の登記がされたことを知って憤激し、残金支払日である同月一〇日、その支払いを拒否したため、原告は、右登記の抹消登記手続をするとともに、松尾武信らに対し、税金対策のため近畿産業開発を形式的に中間に入れることを要望した。松尾武信らとしては、本件土地の所有権を確実に取得することができさえすればよいと考え、原告の右要望を受け入れることにし、同月二七日、近畿産業開発との間で、近畿産業開発から代金三、〇五八万二、五〇〇円で本件土地を買い受ける旨の仮装の契約書(甲第七号証)を作成し、同年一〇月一三日、近畿産業開発に代金四、一〇〇万円の残金全額を支払った。

(カ) 近畿産業開発は、その元帳に、原告から本件土地の代金一、一〇〇万円で買い受け、松尾武信らに代金三、〇五八万円で売り渡した旨の記載をした。他方、原告は、近畿産業開発との間で、本件土地を原告から近畿産業開発に代金一、一〇〇万円で売り渡す旨の仮装の契約書(昭和四四年九月八日付。甲第八号証)を作成した。

(キ) 原告及びその代理人である税理士訴外川瀬啓は、本件処分についての審査請求手続の過程で、原告が直接松尾武信らに本件土地を売却したこと、原告が自己の支配会社である近畿産業開発を本件土地の売買取引において形式的に介在させたこと、以上のことを自認した。

(2) 以上認定の事実によると、原告は、直接松尾武信らに本件土地を売却したもので、本件土地が原告から近畿産業開発を経て松尾武信らに売却された旨の売買契約書の作成や、近畿産業開発の元帳における同趣旨の記載は、原告が租税を逋脱する目的で、その全額を出資し、実質的に支配している近畿産業開発を形式的売主に仕立てるための内容虚偽のものであるとするほかはない。そのうえ、原告は、売主として自ら松尾武信らから手付金及び中間金として合計金一、六五〇万円を受け取ったし、近畿産業開発が原告の支配のもとにあったことからすると、残代金についても、形式的には近畿産業開発が受け取ったことにはなっているが、実質的には原告に帰属したものと推認される。

(3) まとめ

松尾武信らに対する本件土地の売却による所得は、譲渡所得として原告に帰属し、その収入金額は、売却代金額である金四、一〇〇万円であることに帰着する。

(三)  本件各土地の売却による所得に対する課税

(1) 本件土地のうち、三重県阿山郡伊賀町大字柘植町字上ノ山田三、九四五番、三、九四七番、三、九四六番の二ないし四の各土地合計四、四二一平方メートルの原告の所有期間が三年を超えていること、その余の各土地の原告の所有期間が三年以内であること、以上のことは当事者間に争いがない。

(2) そうすると、前者の各土地の譲渡による所得は、総合長期譲渡所得に、後者の各土地のそれは、総合短期譲渡所得に該当する。そして、前掲乙第一三号証によると、原告は、松尾武信らに対し、本件土地を一体として売却したことが認められるから、被告主張のとおり前者の各土地と後者の各土地との地積割合をもとにしてその各収入金額を按分するのが相当である。これによると、各収入金額が別表4の〈3〉欄記載の各金額になることは計算上明らかである。

(四)  原告の主張に対する判断

原告は、近畿産業開発が原告の支配会社ではないと主張して右譲渡所得の帰属を争っている。

ところで、原告が近畿産業開発の代表取締役でなかったこと、原告は豊中市に居住し、研磨業を営んでいること、以上のことは前記認定のとおりであり、証人坂口昇の証言(第二回)によって成立が認められる甲第二三号証及び同証言によると、原告は、近畿産業開発の経営について個々具体的に指揮命令をしたことがなく、木田一郎次いで坂口昇が代表取締役としてその経営に当っていたこと、近畿産業開発は、昭和四四年中に、本件土地以外にも土地を購入し、以後土地売買や宅地造成の事業を継続して営んでいること、原告は、近畿産業開発に対し、本件土地以外の土地を売却したことがないこと、近畿産業開発の株主の持株数は、昭和四七年九月三〇日当時で、原告が八、〇〇〇株、原告の妻上田勝子が一、〇〇〇株、原告の親族大西康雄が二、〇〇〇株であるのに対し、坂口昇が七、五〇〇株、その子昇一が一、〇〇〇株、岡島四郎が五〇〇株であったこと、以上のことが認められ、この認定に反する証拠がない。

しかし、前記認定のとおり、原告が近畿産業開発を設立した当初の目的が、原告の本件土地売却の税金対策にあったことや、資本金は全額原告から支出されたもので、株主は名目上のものにすぎないことなどからすると、少くとも本件土地の売却当時は、原告が近畿産業開発を実質的に支配していたことを否定することができない。

(五)  本件土地の取得費

(1) 原告が別表3の1、2の〈1〉欄記載の前所有者から本件土地を買い受けたこと、本件土地のうち、原告が田中啓太郎、橋本武雄、木沢柳吉、橋本貞男及び橋本芳蔵から買い受けた土地の取得価額が被告主張のとおりであること、原告が柘植英吉から買い受けた土地の取得価額及び登記料等が中原金三郎から取得した土地のそれらに含まれていること、取得費のうち登記料等の金額が被告主張のとおりであること、以上のことは当事者間に争いがない。

(2) 中原金三郎、中川弥右衛門、中村豊、中原清、町井治、田辺茂及び松尾正一から取得した各土地の取得価額

成立に争いがない乙第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四ないし第七号証、証人中川弥右衛門の証言によって成立が認められる同第一七号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第一八号証、証人田辺茂の証言によって成立が認められる同第一九号証、証人中原清の証言によって成立が認められる同第二〇号証、証人中原金三郎の証言によって成立が認められる同第二一号証、証人町井治の証言及び弁論の全趣旨によって成立が認められる同第二三号証、右各証言(但し、証人中川弥右衛門の証言を除く)によると、本件土地のうち、原告が中原金三郎、中川弥右衛門、中村豊、町井治、田辺茂及び松尾正一から買い受けた土地の代金額(取得価額)が被告主張のとおりであることが認められ、この認定に反する証人中川弥右衛門、同坂口昇(第二回)の各証言及び原告の本人尋問の結果は、前掲各証拠と対比して採用できないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

(3) 仲介手数料

原告は、本件土地の購入に当って、原告個人として仲介手数料金六二万円を支払ったと主張しているが、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、このことが認められる証拠はない。

さらに、原告は、近畿産業開発がこれとは別に仲介手数料金四五万円を支払ったと主張しているところ、前記のとおり、近畿産業開発は、原告の支配のもとにあったのであるから、近畿産業開発が本件土地の売買取引に関して支出した諸費用は、原告が支払ったものとして取り扱うのが相当である。そこで、この視点に立って、以下の判断を進める。

前掲甲第六号証の二、証人坂口昇の証言(第一回)によって成立が認められる同号証の九(いずれも近畿産業開発の元帳の一部)には、近畿産業開発が、昭和四四年九月九日訴外坂本某、同松岡某らに金二五万円を、同月一〇日訴外中西某外一名に金一〇万円を、同月一五日訴外某に金一〇万円をそれぞれ手数料として支払った旨の記載がある。しかし、右各書証には、右手数料が本件土地購入の仲介手数料として支払われたことを示す記載がないこと、前記のように近畿産業開発の元帳には本件土地に関する仮装の売買取引が記載されているばかりか、松尾武信らに対する売却代金額も実額よりも少なく記載されていることからすると、右元帳の一部である右各書証によって原告の主張を認めるのは無理であり、ほかにこの主張が認められる的確な証拠はない。

そうすると、被告主張のとおり、取得費として仲介手数料を計上することはできないといわなければならない。

(4) 工事費用

(ア) 原告は、別表6記載の者に工事を施行させ、原告個人又は近畿産業開発がその代金として合計金七五三万二、二〇〇円を支払った旨を主張しており、甲第二ないし第四号証(いずれも近畿土木株式会社発行の領収書)、同第六号証の四、五、同号証の八(いずれも近畿産業開発の元帳の一部)、同第一四号証(木田一郎作成の報告書)の各記載内容、証人坂口昇の証言(第一回)及び原告の本人尋問の結果中には、この主張にそう部分がある。

しかし、右各記載や供述部分は、証人松尾武信の証言と対比してたやすく信用できない。また、証人坂口昇の証言(第一回)によって成立が認められる甲第二ないし第四号証、同証人の証言(第二回)及び原告の本人尋問の結果によると、甲第二ないし第四号証の作成者である近畿土木株式会社の代表取締役訴外木田鈴子は、近畿産業開発の設立当時の代表取締役であった木田一郎の妻であること、甲第三、四号証の発行日付は、それぞれ昭和四四年九月三〇日、同年一〇月三一日であるのに、その発行番号は、それぞれ「〇〇〇三六〇」、「〇〇〇三五九」であり、発行日付と発行番号が逆になっていること、以上のことが認められ、これらの事実からすると、甲第二ないし第四号証は、後日税金対策のため作成された疑いがあるから、証拠としては不十分であるといわなければならない。さらに、前記のとおり近畿産業開発の元帳の記載内容は、信用できないから、同元帳の一部である甲第六号証の四、五、同号証の八のうち原告の主張にそう部分は採用することができないし、甲第一四号証も証拠としては不十分である。

(イ) 却って、成立に争いがない乙第一一、一二号証、同第一四号証、証人松尾武信の証言によると、本件土地は、松尾武信らが買い受けた当時、全く手が加えられていない自然のままの状態であり、造成工事はもちろんのこと、樹木の伐採や下刈も行われていなかったこと、そこで、松尾武信は、右買受け後、自らの費用で近畿土木株式会社に対し、土地の区分け、石積み、道路敷設等を内容とする造成工事を請け負わせて同工事を施行させたこと、以上のことが認められる。

以上認定の事実によると、被告主張のとおり、原告又は近畿産業開発は、工事費を支出しなかったものとしなければならない。

(六)  本件土地の譲渡費用

(1) 仲介手数料

前掲乙第八号証、同第一二号証、同第一四号証、証人横田良一の証言、原告の本人尋問の結果によると、訴外横田良一、同盛清俊文は、原告が本件土地を松尾武信らに売却するに当って、仲介の労をとったこと、近畿産業開発は、横田良一及び盛清俊文に対し、仲介手数料を支払ったこと、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

原告は、本件土地売却の際、仲介手数料として金八九九万円を支払った旨を主張しているが、うち金五〇〇万円については、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、このことが認められる証拠は見当らない。

もっとも、うち金三九九万円については、甲第五号証(訴外田中広次郎作成名義の領収書)、同第六号証の五、同号証の九(いずれも近畿産業開発の元帳の一部)の各記載内容、証人横田良一、同坂口昇(第一回)の各証言、原告の本人尋問の結果中には、近畿産業開発が横田良一、盛清俊文及び田中広次郎に合計金三九九万円を支払ったことを窺わせる部分がある。

しかし、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、田中広次郎なる者が実在の人物であるとの確証がない。そのうえ、前記乙第一四号証によると、横田良一は、自ら本件土地の所有者を調査してこれが原告であることをつきとめ、以前から面識があった松尾武信らに買受けの意思を確かめたうえで、原告に松尾武信らに対して売却する意思があるかどうかを尋ねたことが認められ、この認定に反する証拠はない。このような売却の経緯からすると、近畿産業開発が金三九九万円もの高額の仲介手数料を支払ったことは到底認められないといわなければならない。

しかし、横田良一及び盛清俊文が仲介をしたことは、前記のとおりであるところ、成立に争いがない乙第二三号証によると、大阪府告示第一七一号によって同府宅地建物取引業者の報酬額の最高限度額は、売買代金二〇〇万円以下の部分につきその五パーセント、二〇〇万円を超え五〇〇万円以下の部分につき四パーセント、五〇〇万円を超える部分につき三パーセントと定められていることが認められ、この認定に反する証拠はない。そこで、この最高限度額によって算出された金一三〇万円を本件土地の仲介手数料額とするのが相当である。

この金額を、総合長期譲渡所得と総合短期譲渡所得に該当する各土地の地積割合で按分すると、別表4の〈3〉欄記載の金額になる。

(2) 飲食代

本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、原告が原告主張の飲食代を支出したことが認められる証拠が見当らないばかりか、前記(1)の売却の経緯からすると、原告が本件土地を売却するに当って金五〇万円の飲食代を支出したことは疑わしい。

そのうえ、所得税法三三条三項にいう「譲渡に要した費用」とは、譲渡を実現するために直接必要な支出のことであると解するのが相当であるところ、仮に原告がいくばくかの飲食代を支出したとしても、前記(1)の売却の経緯からすると、これは直接必要なものとは到底いえないから、譲渡費用として認めることはできない。

(七)  まとめ

本件土地の売却による原告の総合長期譲渡所得及び総合短期譲渡所得は、別表4の〈3〉欄に、原告の昭和四四年分の総合長期譲渡所得及び総合短期譲渡所得は、別表2の〈3〉欄に、それぞれ記載されたとおりの金額になる。

第四本件処分の適法性

一  前記第三の一及び第三の二(七)で説示したことに基づいて原告の同年分の総所得金額を算出すると、別表2の〈3〉欄記載の三、〇八四万九、三一二円になり、この金額は本件処分におけるそれを上回っている。

そうすると、本件再更正処分(裁決で一部取り消された後のもの)は、適法であることに帰着する。

二  前記認定事実や成立に争いがない乙第一〇号証によると原告は、直接松尾武信らに本件土地を代金四、一〇〇万円で売却したのに、近畿産業開発に代金一、一〇〇万円で売却したような仮装の売買契約書を作成し、これに基づいて被告に対し確定申告書を提出したことが認められる。

そうすると、原告は、所得税の課税標準の計算の基礎となるべき事実を仮装し、これに基づいて納税申告書を提出したものであるから、被告が昭和四九年一〇月一六日付及び同年一二月一八日付でした各重加算税賦課決定処分(裁決で一部取り消された後のもの)は適法である。

第五むすび

原告の本件請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 寺田逸郎 裁判官 小佐田潔)

別表1

課税の経緯

〈省略〉

別表2

所得金額

〈省略〉

(注) 27,471,143円=27,276,663円(別表4の〈3〉)+194,480円 (当事者間に争いがない分)

別表3の1

本件土地の取得費の明細

〈省略〉

別表3の2

〈省略〉

別表4

本件土地売却による譲渡所得の明細表

〈省略〉

別表5

仲介手数料の明細表

〈省略〉

別表6

工事費の明細表

〈省略〉

(注) 〈1〉ないし〈6〉は、近畿産業開発が支払った分。〈7〉及び〈8〉は、原告個人が支払った分。

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